私は都内でフリーランスのデザイナーとして働く38歳の女性。小さな庭付き一戸建てに、愛犬のトイプードル「ハナ」と二人(?)暮らしだ。姪っ子が頻繁に遊びに来ては、「ハナは私の妹!」などと言ってはしゃぐので、近所の人には「一人娘」として認識されているらしい。
そんなある日の午後、作業に集中していた私は、インターホンのしつこい音に作業を中断させられた。ドアを開けると、制服姿の若い警官が立っていた。
「○○警察署の者です。お宅の…娘の“ハナさん”を連行します」
――え? 一瞬、時間が止まった。
「……ハナですか?」
「はい。“ハナ・○○さん”に窃盗容疑がかかっておりまして。被害店舗からの防犯映像にも…」
私の脳裏に浮かぶのは、つぶらな瞳で私の顔を見上げ、毎朝ヨーグルトをねだる、あのフワモコな愛犬ハナ。まさか、そのハナじゃないよね?と祈りつつ、私は思い切って言った。
「その“ハナ”って、うちの犬のことではありませんか?」
警官の眉がピクリと動く。
「え?……え、犬?」
私は慌ててスマホを取り出し、ハナの写真を見せた。そこには、ピンクのリボンをつけて、ソファの上でくつろぐ小さなトイプードルの姿。
警官は絶句した。「……この子、ですか?」
「ええ。ハナは人間じゃなくて、犬です。うちにはこの子しかいません」
しばらく沈黙ののち、警官は無線で確認を取り始めた。その横で私は、笑っていいのか怒るべきなのか複雑な気分だった。
やがて、もう一人の警察官が車から降りてきた。彼は丁重に頭を下げてこう言った。
「大変失礼いたしました。どうやら、別人――いえ、別犬……だったようです」
どうやら、同じ名字・同じ名前の「ハナさん」という若い女性が、近所のドラッグストアで万引きの常習犯として目撃されており、通報者が「○○町の○○さんの娘」と説明したことから、我が家が間違って特定されたようだ。
「いや、それにしても犬と間違えるって……」
私は呆れながらも、ハナを膝に乗せて撫でてやった。ハナは私の顔を見上げ、何事もなかったかのようにあくびをした。
それにしても――警察が真剣な顔で愛犬を“連行”しようとするとは、前代未聞である。
だが、この騒動には思わぬ副産物もあった。
翌日、ご近所でうわさが広がった。
「あそこのお宅の“娘さん”、実は犬だったんだって!」「でもハナちゃん、すごくお利口だし、本当に人間の子みたいよねぇ」
私は苦笑しつつも、何となく悪い気はしなかった。
一方で、警察の方々はその後も何度か我が家に謝罪に訪れ、ついには「犬のハナさん宛て」に小さなお詫びの品(骨ガムと犬用クッキー)まで届いた。
「ハナ、良かったね。容疑は晴れたよ」
ハナは相変わらず、私の足元で丸くなり、しっぽを振っている。
人騒がせな誤認逮捕未遂ではあったが、私にとってはハナが「娘」と呼ばれるほど愛され、守られている存在だと改めて気づく機会でもあった。
“娘のハナさんを連行します”なんて言われた日、私の中で「家族とは何か」を問い直す出来事となったのだ。
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